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2016/07/04

トラブル、建築、暮らし ーシンポジウム「『犬のための建築』をめぐって」を聴いた

先月から引っ越しをして一人暮らしを始めた。28歳で初めての一人暮らしという恥ずかしい感じではあるのだが、駅から少し遠いけれどリビングと寝室を分けて使えるぐらいの感じで、日当たりがとにかくいい。飲みに行く予定がないときは料理も作っているし、掃除も洗濯も、いまのところ問題なくできている。


暮らしていると、生ゴミの臭いが気になったり、日当たりがいいがゆえに部屋に熱がこもってしまったり、小さい問題が起こる。柔軟剤の匂いがなかなか気に入らなかったり、新しい炊飯器のご飯がいつもちょっと固めになってしまったり。これまで実家暮らしだったので、こういう小さい問題は家族が気にならないようにしてくれていたのだということを思い知る。だが、それを細かくケアしていくことで生活が楽しくなっていく。(いろいろ物を買いたくなるので出費はかさむが


これまでは家事をしながら好きに音楽を流したり、ラジオを聴いたりすることができなかったけれど、今はそれができる。今まではTBSラジオのPodcastで「session22」とか「ウィークエンドシャッフル」とか聞いていたのだけど、TBSラジオのPodcast7月にはいって終了してしまい、それができなくなってしまったので、最近ハマっているのは「TOTObunka」というチャンネル。TOTO出版で企画されたいろんな建築家の講演が無料で聞けるので、これを聞いている。はじめに聞いたのはこの「犬のための建築をめぐって」という3年前のシンポジウム。

原研哉さんが中心になって立ち上げた「犬のための建築 ARCHITECTURE FOR DOGS 」というプロジェクトについてのシンポジウムで、犬と建築の話だけでなく、建築家がマカロニを設計するという考え方の話や、2013年の「HOUSE VISION」の話もでてきて、原研哉さんという人のスタンスがよく分かる内容。著書『デザインのデザイン 』は高校生の頃に読んだのもあったがインパクトの大きな本だったし、これまでに何度も読み返している。原研哉さんの仕事ぶりは、10年経てさらに進化してる。

「建築というものは、快適に暮らすことだけではなく、抱え込んだトラブルそれ自体が人間を元気にする」というのはこの中で話題になっていて面白いなぁと思った言葉。ぼくが借りたアパートは、もちろん快適に暮らすように設計されているし、現にいまのところはとても快適だ。半分冗談で言っていたようなところはあるのだが、原研哉さんが言っているのは、名だたる建築家が設計した家に暮らす人のことで、「コンクリートむき出しの地下室はジメジメして湿気て大変で、まるで象を飼っているようだというのだが、そういうトラブルを抱えながら嬉々として暮らしている」という。そうやって"建築と付き合う"ことが、人を元気にするんじゃないか、ということだった。

ぼくもなんとなく1ヶ月ぐらい暮らしてみて思うのは、こういうトラブルに対応する手法のなかに、様々な知恵が生きていることだ。大きめのゴザをつかって日光を遮ることで部屋の温度をさげること、シャワーをしたあとに軽く冷水を浴室に撒いておくと浴室の温度が下がってカビにくいこと、生ぐさくならないためのシンクの掃除の仕方などなど、暮らしてみて見えてくるディティールがたくさんあって、ああこういう日常的な実践の中にデザインがあるのだなぁと思う。

ぼくの美的センスがポンコツでクタクタなので、こういったシンポジウムを聴いたり展示を見たりしてもセンスがよくなることはこれまでなかったのだが、ポンコツならポンコツなりに実践できる日常のデザインというものがありそうだ、と、家事をしながら音声を聞きながら思った。


ちなみに、今年の夏に「HOUSE VISION」の新しい展覧会があるみたい。三越伊勢丹やairbnbの名前が並んでいて、気になる!http://house-vision.jp/exhibition/