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2014/05/13

ファッション、物語、戯れ ー拡張するファッション展 その2


4月の終わりから水戸に滞在して、GW。水戸芸術館で開催中の「拡張するファッション展」でFORM ON WORDSの新作発表会「ジャングルジム市場」にて、ファッションショー「試着」を開催してきた。

FORM ON WORDSでは、今回の展示のために300着の古着とそれにまつわるエピソードを集めた。そしてそれをもとに、その物語を体験するための装置をつくるワークショップを実施。60近くのアイデアを13着に集約し、デザイナー、パタンナー、ニッターの方々と共に制作をした。

ファッションショーは、演出・構成にFAIFAIの野上絹代さん、音楽にOpen Reel Ensembleの佐藤公俊さん、難波卓己さん、映像に中島唱太さんをそれぞれ迎えるという超贅沢豪華布陣。

絹代さんが作った演出では、13着の服それぞれに、服それ自体を主人公にした物語があり、一つの服の始まりから終わりを描いている。音声ガイドによって13人それぞれの参加者をリアルタイムで振付をしていく。人口音声が服の語りを読み上げ、絹代さんの肉声による振付がされる。絹代さんらしい人への愛情とギャグセンスと適度な無茶ぶりが込められていて、聞いてて楽しい音声ガイドが出来上がっている。

音楽もまた、13着それぞれの服の形状やエピソードをもとにした曲がついていて、13のシーケンスが場面の展開に合わせてミックスされていく。各回ごとに音楽の展開や重ね方が異なり、コミカルなときもあれば、しっとりと泣かせるときもある。現場でも13の要素で普通人が気付かないような薄い音を流すなど、本当に細かく演奏してくれていた。

映像は、4ヶ所にしかけられたGoProが撮影し、リアルタイムでスイッチングしていくことで、全体を把握しづらいジャングルジムという構造を明らかにしていく。ちょっと湾曲したGoProのレンズが、四角いジャングルジムをスタイリッシュに映し出す。ショーが終わるとすぐにその様子が再生され、参加者のリフレクションや、物語の謎解きのヒントとなる。

そしてショーに出演するモデルは、本番10分前までに参加の意志をもって集まる一般の参加者だ。中にはパフォーマンスの経験を持つ人もいるが、ほとんどが素人だ。そして、自分がどの服を着るか、どんな物語を体験するか、始まってみないとわからない。稽古なしのいきなりの本番を、どう生きるか。そんなショーになっている。

この内容のショーを、5月3日と4日の2日間、全8回上演した。104人のモデル、およそ400人のオーディエンスを迎えたショーをつくるまでの日記をまとめた。



◯4月28日

4月28日に水戸入り。BUGHAUSチームとともにジャングルジム組み上げ。まず、タテ6本×横6本の36本の縦軸をグリッドの交点に置いていく。



そしてひとまず横軸を仮止めし、そこから図面に合わせて横軸を取り付けていく。クランプを締めるバリリリリリという音が部屋中に響き渡る。2階層目が見えてくるところまでは組み上がった。




初日の夜からバンバン飲む下町のアート大工たち。一人ひとりがBUGHAUSでどんな仕事をしたいかを話してたなあ。ぼくはビールをもらいながら演出に関する編集作業。そして寝るときも楽しそうに準備。ほんとに仲いいなこの人ら。



◯4月29日


29日は、2階層目の床板を付ける作業から。あゆみ板を乗せて、バンセンで止める。その上にボードを乗せてビス打ち。出来上がった2階層目に乗って、今度は3階層目を積み上げていく。このあたりから高所作業が入ってくるので、かなり怖くなってくる。



照明、音楽、モデルが加わると、一体どうなるのだろうか。素人ながらなんとか必死に想像をして、棟梁に相談をして3階の配置を変えてもらうことに。広間の空間が大きくとれるように、3階から見渡せるように変更をした。しかし、全員で取り組むと作業は思いの外順当に進み、予定よりも早く終わったのでBUGHAUSチームは引き上げ!


夜は、一人でビールを飲みながら受付周りやら図面やらを作り直し。

◯4月30日

30日から照明や展示位置の作業が始まる。同時進行でファッションショーの演出の構成をつくる絹代さんとのやりとりやら、服作りの確認やら、展示位置の当て込みやら。単管で組まれたものの真ん中に浮かせてみると、服が幽霊みたいに気配を持って見えてくる。いい感じだ。

夕方には映像担当の中島くんも来てくれて、機材を運び込んでくれていた。プロジェクションの位置も当て込んで、いいかんじ!そして、この日は少し早め(といっても21時)に切り上げて中島くんとロイホへ。新しくつくったAR絵本を紹介してくれた。


ちなみにこのARとはAugmented Reality、訳すと「拡張現実」。カメラをかざすと、そこにないはずのモノが浮かび上がる。まるでゴーストのように。奇しくもこの展覧会のタイトル「拡張するファッション」とは異なる文脈の「拡張」の、中島くんは専門家である。この拡張と、展覧会の拡張が一致したら面白いね〜と、話す。

この日も夜は一人。もういいや早めに寝よう、と思いつつ作業をしていたらふと値落ちしていて、再度起きたら時間は2時半。宿泊させてもらっていたレジデンスは古い昭和のお家なのだが、この日は雨が強くてバタバタ音がして、しかも奥の部屋でガタンと音がする…。こわい…。



服を展示して幽霊みたいだの、ARはゴーストだのと言ってたもんだから自分のなかで幽霊を想像する力がたくましくなっていたみたいで、こわい、、、とにかくこわい!ひとりで一時間半ぐらいガクブルしていた。朝のニュースが始まったら気持ちが落ち着いて、寝ることができた。

◯5月1日

5月1日、この日は西尾さんが朝から会場入りする。やはりFORM ON WORDSのメンバーが一人でもいてくれるだけで、だいぶ進む。一人よりも二人のほうがいい。服の展示の位置の再編集と、ショーのシミュレーション、キャプション用のデータの作成など。

夜は「中華の鉄人」へ。お店のなかが無音で、おれと西尾さん、あとの二組は不倫カップルで不倫の話と承認欲求の話をずーっとしてる…。疲れた身体で、一生懸命プロジェクトの話をしようとするわれわれ。

夜はレジデンスに戻って寝る。この日は怖くない。




◯5月2日

5月2日、FAIFAIの絹代さん、Open Reel Ensembleの佐藤さん・難波さん、映像の中島さん、そしてFOW西尾・竹内・濱・臼井イン・ダ・ハーーーウス!!!!イエスYES YOOOOOO!!!!!!という感じで緊張しつつも超嬉しい。さらには京都から服の制作サポートに新庄さんが加わる。

しかし、喜びもつかの間。このあと怒涛の、いや、地獄のリハが始まる。



まず、午前中は絹代さん、西尾さん、臼井で展示位置と小物の展示の確認。OREの二人には音声ガイドのデータをつくってもらい、再編集してもらう。映像の中島さんは機材をチェックし、買い出し。竹内さんは今回発表される新作の服の修理や修正、濱くんは13着が生まれた経緯を見せるシートをデザイン。各自が明日の本番に向けてガツガツ作業していく。

お昼ごはんは近くのKEISEIデパートで買ったお弁当をみんなで食べる。「服作りをする人は、やっぱり体力に自信があるんですよ、ブルーカラーワークなんで」と真顔で語る竹内さんに、佐藤さんが「あ、だからそんなにがっちりした体型なんですね」と聞くと「いや、これは太ってるんです」と返すもんだから全員がずっこけるというなごやかな昼休み。


午後一番で初めてのリハーサル。1週間前のリハではまだタイムラインを合わせることができていなかったから、ドキドキ。水戸芸のスタッフさん、FOWメンバーで試してみる。終えてみた実感は、これは、まだまだだ!!!ということ。小道具の位置、振付の文章の修正、物語が交差する位置の修正、大掛かりな作業をしなければならなくなる。



絹代さんにタイムラインの位置を確認してもらう。ぼくはひたすらそのサポート。やばい、合わない…。焦りが募る一方で、時間はどんどん過ぎていく。今回のタイムラインは後半部分で14分。44個のセルから成り立っていて、合計572個のセルを操って構成している。っていうとうひゃーだなやっぱり

最初18時と言っていたリハーサルも、開始のめどがたたない。18時を過ぎ、閉館時間になってから、スーザン・チャンチオロの展示室にパソコンを持ち込んで、音声ガイドの再録を進めていく。スーザンの作品に見守られて、どんどん作業が進んでいく。

最終的にリハが可能になったのは、夜12時。終了後にいろいろ検討をして、最後はなんと深夜1時…。水戸芸のみなさんにはほんとに迷惑をかけてしまって、もうぼくは心臓が痛かった。これだけ作業に滞りがでるのはスムーズに進むように、事前に何が必要かを予測して段取を組むことができていなかったからだと責任を感じた。


「プロジェクトの質は担当者の手腕で決まる」という言葉があって、ぼくは今回のプロジェクトの担当者だった。作業がスムーズに進むように、段取を組み、的確にパス回しをする役だった。しかし、それができていなかった。ぼくの手腕のなさを、みんなの才能と気合になんとかカバーしてもらったけど、その結果がこの深夜…。

とはいえ、なんとかなるだろこれで!というレベルには到達した。リハを終えたとき、13の時間軸が交差する。ある種の感動があった。


その後帰ってきて深夜3時。腹が減ったので素麺をゆでてみんなで食べる。ビールも飲む。うちの竹内が今回のショーはいい。こういうのがやりたかった、などと終わってもないのに言ってるので、まだ事故があるかもしんないっすよ!とか言いながら、ひとまず寝ることに。


◯5月3日

そして迎えた初日。お客さんが実際に空間に訪れる。ジャングルジムの中に入って遊び、服を試着していく。予想だにしなかった着方や遊び方をしていて、オーディエンスとはなんと迫力のある存在なのだろうかとぼくはあっけにとられてしまった。

ショーの初回。朝なのであまり集まりが良くない。その場にいたお客さん、子どもやそのお母さんに声をかけ、13人に集まってもらう。和気あいあいとした雰囲気のなかで、初回がスタートした。

指示がスルーされてしまう事が多く、全く予想していたものとは違った。うわ、これ、全然思い描いたとおりにいかないかもしれない・・・・・・・・あと7回この調子だと、や、やばい・・・。

水戸が終わって直後に新作のリハに入っている忙しい絹代さんに電話をして、どうしたらいいかアドバイスを仰いだ。なるほど、指示をよく聞くように、ということと、物語部分を楽しんでもらうということと、他の人がどんな物語を体験しているかよく見てもらうということ。

2回目。お客さんも多く集まり、会場の緊張感が増していく。初回の反省を活かし、参加者によくよく指示を伝える。音声ガイドとなるiPodの操作でミスが続くか、3度めになんとか一斉スタートが成功。2回目のショーが始まる。果たしてうまくいくのか…。

手に汗をびっしょりとかきながら、照明を動かす。始めの指示、試着をみんなが始める。次の指示、深呼吸が一斉にはじまったとき、ぼくはこのショーがうまくいったことを知った。あとは参加者を信じるだけだった。

赤ちゃんが泣き始める。歌を歌う人がいる。星座が服に水をかける。動物が加藤になつく。ビッグウェーブの声がこだまする。てるてるが動物を応援する。加藤の服とおじいさんが花と杖を交換する。時間の神様が137億年経過を告げる・・・

知っていたけれど見たことのなかった物語が目の前で生まれていった。嬉しさで震えた。



そんなこんなで初日を終えて、夜はみんなで1回体験してみることに。中島さんが「赤ちゃん」、佐藤さんが「星座」、難波さんが「加藤」、西尾さんは「ラブストーリー」、竹内さんは「キノコ」、濱くんは「花」、ぼくは「まち針」。絹代さんがここにいないのがやっぱり寂しい。

チームのメンバーが実際に体験してみるというのはだいぶ面白かった。「キノコ」は山を登りながら歌う、という設定があるんだけど、竹内さんは「おれなら絶対中島みゆきのファイトをうたいますけどね」と豪語していたにも関わらず「おかーをこーーえーーいこおおおおよーーーー!」と絶叫してるし、佐藤くんは無重力表現が太極拳の動きだし、西尾さんは寒がる動きしてるし、中島くんの泣き方は「おんぎゃー、おんぎゃー」だしそんな泣き方あるかいと思って、知っているとなおさら笑えた。

写真は初日が明けて、ジャングルジムのメインスポット「交差点」から天井を見上げる様子。



夜は中華料理屋でビールと餃子を楽しむ。作業を残したままだったけど、楽しい会食だった。おもに竹内さんのプロポーズ秘話と、DJをやっていたころにズブズブ系ミニマルでフロアから300人を去らせたという伝説の話だったけども。


◯5月4日

この日から本格的に導入した服選びのための適性診断。Yes/Noに合わせて服を選んでいく。まるで占いのように服の適性が決まっていく感じは、かなりいいぞ!と思いながらやっていた。不思議なことにキュレーターの方は「ラブストーリー」もしくは「加藤」になっていく。

11時、10分前になっても参加者はゼロ…。え!ゼロ!となってテンパったものの、なんとか13人集まり、まったりしっぽりいいテンションのショーができる。

13時の2回目はiPodのスタートがなかなか切れず…。このアイポッドシャッフルの人力同時スタートがなかなか難しく、どうしても止まっちゃったり巻き戻してなかったりでうまく行かないこともある。この回もなんとかスタート。

15時の回は会場が超満員。うわさによると90人近くが入っていたとか。その超満員の前で、みなさんなんと一発スタートをキメた。しずかに、スムーズにショーが始まる。OREの二人が奏でる静謐な環境音の中、一人ひとりが「試着」を始める…。

ショーが終わり、ライトアップをすると、会場中に拍手が響く。90人の拍手はさすがに大きい。モデルのみなさんも、充実した顔で出口に集まってくる。まるで劇の上演を終えた役者のように。あぁ、この人達はたった30分前に出会ったばかりなのに、1×13の物語/人生をはじまりからおわりまで体現してきたんだなぁ、と、船の乗組員を迎えるようなそんな気持ちだった。




そしていよいよ最終公演。13人の参加者/モデルのなかに、林央子さんもいる。最後の回なのにぼくはすっかり緊張してしまって、ハラハラしながら適正診断をしていく。その結果、なんと央子さんが「加藤」の服に!!!いや、でもこれはこれで正しい、むしろ最も美しい回答だと思う。と、自信をもってみんなを送り出した。

最終公演が終わり、拍手の中で参加者/モデルを迎える。こんな風にみんなが気持ちよくでてくるところを最後まで想像できなくて不安だったときのことを思い出し、ぐっと涙が出そうになるのをこらえる。参加者同士で記念写真。その後、映像の前で振り返りながら、のんびりと見つめる。



正直ショーには、まだまだツメられる要素がたくさんある。今回が失敗だったわけではない。しかし、可能性がまだまだある。もっといいものが作れると思うから、みんなとこの方法で再度挑戦したいと思う、ということを、みんなに伝えたら、よろしくと答えてくれた。


OREの佐藤さん、難波さん、マネージメントの高石さんと別れ、メンバーが待つ控室に向かう途中、エントランスホールいっぱいにひろがるパイプオルガンの演奏が聞こえた。次の日のためのリハーサルだったのかもしれない。名前も知らない曲を聞きながら、なんだかんだいってよくがんばったんだな、なんとかなったんだなと思ったら涙が溢れてきた。その後すぐに高橋さんが来たから泣いてたのちょっとバレたかなどうかな。

とにかく嬉しかったのは、モデルとして参加してくれていた人たちひとりひとりが音声ガイドに従いつつ、自分なりに一生懸命に動いていたことだった。ただそれだけのことで、人が可愛いと思ってしまったことだった。人生とは稽古なしのいきなりの本番なのだ。無数の選択肢を前に、わからないことだらけの世界を、人のせいにせず、意志の力で楽しむのだ。

ほんとに、このデンジャラスな企画を一緒に作ってくれた絹代さん、佐藤さん、難波さん、中島さん、ジャングルジムをバリバリ組み立ててくれたBUGHAUSのみなさん、展覧会における重要なポジションを託してくれ、制作に寄り添いつづけてくれた水戸芸術館の高橋さん、廣川さん、大森さん、寺ちゃん、そして本展の原案の林央子さん、本当にありがとうございました。

「拡張するファッション」水戸芸術館の会期は18日(日)まで。FORM ON WORDSの新作コレクションは「ジャングルジム市場」にて試着できます。最終日はコズミックワンダーのファッションショーがあります。そして6月には香川県は丸亀市、猪熊弦一郎美術館に巡回します。

会期終了まで、くれぐれもよろしくお願いします。